「採苗」手法比較
採苗手法別の概要(マガキ生産例) 「天然採苗と人工採苗」
天然カルチ採苗
天然受精して海中で浮遊しているマガキ幼生をホタテ貝殻等の付着基質を海中に浸漬する事で付着させる種苗生産方法。
☆メリット → 安価に大量生産が可能。
→ 約一年間の採苗地での抑制作業による自然淘汰済みの為、冬場の斃死率は低い。
★デメリット → 付着数など年変化が激しく安定していない。(温暖化や災害など)
→ 採苗地の遺伝形質を継承する為、実際の養殖地での生育環境に適合し難い。
→ ホタテ貝殻などの付着基質が採苗資材として必要となる。
カキ礁
(2011/05/28 佐賀県鹿島市沖のカキ礁への試験採苗器設置状況と種苗回収状況)
カキ礁天然採苗コレクター設置試案模式図
○コレクター種別 ホタテ貝殻80枚を一連 全長800mm 100連8,000枚 鋼線縫い
○連結方法 連は6mmクロスPEロープ、幹綱は18mm三つ打ちPEロープ
1m間隔、幹綱全長100mを指定場所に重ねて設置
○表示方法 PEフロート1尺玉 (必要であれば簡易浮標灯)
*カキ礁水深2〜3m時のコレクター設置回収を想定し、省力化を目指す。
有明海のカキ礁で養殖カキ用の良質な種苗を安定的に入手することに成功!!
今年3月11日に発生した東日本大震災は各所で水産業に甚大な被害を与えました。中でも養殖カキの一大産地である宮城県では,津波により筏や
加工場が流されるなど漁業の根幹を直撃されました。加えて,この海域は養殖用種カキ(種苗)の全国シェア約9割を占めていたため,地元のみなら
ず全国の養殖現場で種苗の安定確保が緊急かつ大きな課題となりました。
有明海の奥部,特に佐賀県西部の干潟には日本最大のカキ群落(カキ礁)が存在します。この度の震災で生じたカキ種苗の不足は,九州海域のカキ
養殖にも大きな波紋を投げかけました。そこで西海区水産研究所では新たな種苗の入手方法を検討するため,カキ礁での採苗を試みました。
その結果,カキ礁で極めて良質なものを安定して得られることを明らかにしました。
また,その種苗は@夏場に大量死亡しないこと,A夏場から実入りが 良くなることなど,今までにはない利点・特徴を持つことが確認されました。
今後,カキ養殖に使用する種苗の安定確保や新たな特性を持った養殖手法の開発に向け,カキ礁における採苗のさらなる検討や産業現場での
利活用が望まれます。
本件照会先:独立行政法人 水産総合研究センター 経営企画部 広報室 広報コーディネーター 角埜 彰 TEL:045-227-2624
西海区水産研究所 有明海・八代海漁場環境研究センター センター長 有瀧真人 TEL:095-860-1620
〒220-6115 横浜市西区みなとみらい2-3-3 クイーンズタワーB 15階
TEL 045-227-2600 FAX 045-227-2700 http://www.fra.affrc.go.jp/
図1 有明海奥部に広がるカキ礁
【調査の背景】
3月11日に発生した東日本大震災は,地震直後の大津波によって北海道から九州の広い範囲で水産の現場に甚大な被害を与えました。
中でも震源地に近い岩手,宮城両県のカキ,ワカメなど養殖漁業は,海上ならびに陸上施設の大部分が流出・破壊されたため,壊滅的な状況となり
ました。
一方,宮城県はカキ養殖用の種苗シェア約9割をしめる一大産地であったため,影響は被災地だけにとどまらず,全国各地の養殖現場では次年度
以降の種苗確保が緊急かつ大きな課題となりました。
西海区水産研究所では有明海を重要な研究フィールドとしていますが,この海域の奥部には日本一の面積を誇る干潟に加え,およそ1,000平方
キロメートル(東京ドーム21個分)にも及ぶカキの群落(カキ礁:図1)が広がっています。
私たちは,これまでカキ礁の環境浄化機能や多様な生態系に係わる役割を調査・研究してきましたが,この度の震災で生じた養殖カキの種苗安定
確保に向けた課題に対応するため,@カキ礁における安定採苗手法の開発,およびA得られた種カキの養殖用種苗としての評価について試験を
実施しました。
【試験の内容・特徴】
1.試験@:カキ礁における安定採苗手法の開発
1)実施日時 2011年5月28日〜9月5日(100日間)
2)実施場所 佐賀県鹿島市塩田川河口カキ礁(図2)
3)協力機関 (株)西海養殖技研ほか西九州地区貝類生産研究グループ8社
4)結果の概要
・既存の天然種苗コレクターとして多く用いられるホタテ貝殻をカキ礁の上へ直に横置きで100連設置した。
・100日後にはホタテ貝殻1枚あたり50個以上のカキ種苗(1〜2cmサイズ)を採苗できた(図3)。
・横置きのコレクターにはフジツボやイガイなどの動物性付着生物がほとんどつかず良質の種苗が得られる。一方,縦に設置した場合はカキ
以外の生物が多量に着生する事を確認した。
・カキ礁での採苗は一昨年より3回実施しているが,毎年安定した結果を得られた。
2.試験A:得られた種カキの養殖用種苗としての評価(中間評価)
1)実施日時 2011年5月28日〜9月5日(100日間)
2)実施場所 長崎県平戸地区カキ養殖場ほか5地区
3)協力機関 (株)西海養殖技研ほか西九州地区貝類生産研究グループ8社
4)結果の概要
・2010年夏季にカキ礁で採苗され、1年間カキ礁上で養生されたカキ種苗を4月中旬受入と5月下旬期受入の2期に分けた養殖試験に使用した。
・水温の上昇した夏場に成長が一時停滞したが,これまで大きな問題となっていた宮城県産の種苗で発生する大量死亡(50〜60%)は殆ど
認められない(図4)。
・宮城県産の種苗では,殻体成長は早いわりに、産卵後の夏場以降の回復と身入りが遅い傾向があり,地域によっては需要が見込まれる
年末期の販売には身入りが間に合わず出荷時期が翌年の春までずれ込む事が報告されている。
今回の試験地域では、夏場の殻体成長は遅く小粒ながらも高い生残率と産卵後の夏場以降の回復と身入りが早いことが報告されている。
・今後,秋〜春の出荷時期に再度宮城県産の種苗と成長度(個数/s),生残率(個数/付着板),身入り度(肉重量/総重量)等を比較する。
・さらに今年採苗した種苗を秋以降に養殖試験に使用し,成長度,生残率,身入り度等を比較する。
【成果の活用】
1.養殖用カキ種苗の安定的で多様な入手に役立ちます。
2.今まで大きな問題となっていた養殖カキの夏場に生じる大量死亡、販売早期の身入り不足を解消するなどの対策として有効な技術である可能性
があります。
3.今後,カキ礁での採苗技術およびそれらを用いた養殖試験を継続していくことにより,カキ養殖で生じる問題を解決し,様々な養殖形態に対応する
ことが可能となります。
小粒ではあるが夏場の斃死が少なく、早期の身入りが期待出来るなど、既存のマガキ養殖とは異なる、新たな市場を形成する可能性があります。
図3 カキ礁での採苗試験結果 図4 カキ礁 天然種苗 育成試験T
図5 カキ礁 天然種苗 育成試験U
人工カルチ採苗
人工授精させたマガキ幼生を室内でホタテ貝殻等の付着基質に強制的に付着させる採苗生産方法。
☆メリット → 安定した種苗生産が可能。
→ 系代採苗が可能となり養殖地に適した選抜育種などで品質向上が見込める。
★デメリット → 室内餌量生産能力で種苗生産数が限定される等、生産コストが非常に高い。
→ 室内育成タンクサイズにより付着盤への安定付着が困難。大型で深さが必要。
→ 室内育成タンクへも着底付着するので除去作業が困難。
→ ホタテ貝殻等の付着基質が採苗資材として必要となる。
(2011/07/10 長崎市水産センター 人工採苗 水工研役務)
イワガキ
H22.8月末 H22.10月初め H23.6月末
人工シングルシード採苗
人工授精させたマガキ幼生を室内でホタテ貝殻等の付着基盤を使用せずに最初から1粒で着底成長させる採苗生産方法。
☆メリット → 安定した種苗生産が可能。
→ 系代採苗が可能となり養殖地に適した選抜育種などで品質向上が見込める。
→ 常に正確な生産貝数の把握が可能で計画生産に有利。
→ 脱塊や剥離作業が無く、省力化に有利で生産性が高い。
→ ホタテ貝殻等の付着基質が採苗資材として必要でなく、省力化に有利で生産性が高い。
★デメリット → 大型種苗を生産する場合、前述のカルチ同様に、室内餌量生産能力で種苗生産数が限定される上に、特殊な室内飼育器
が必要になるなど生産コストが高くなる傾向がある。
→ 配布種苗が小型の場合、初期歩留が低くなる傾向がある。

(2010/08/23 田崎真珠)
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